社長同席

社長・センター長・私の三者会談が始まった。

強い力で揉まれたという母と、診断・触診の類の<評価>だというセンター長。

「センター長の評価行為で利用者の身体に負荷が掛かるなどは、有り得ない」

ここでも社長は、センター長が認める<責任の可能性>すらも、前提から外し、

母の訴えを取り合おうとしない。

 

体験利用当日、私は母に付き添っていたが、社長にはその認識自体ないようで、

私が母からの伝聞だけをうのみに責任問題を展開していると、釘を刺してきた。

この社長の人格と共に、センター長が正確な経緯を報告していない疑念が生じ

「センター長とは、ここまで認識一致がある」と確認文書を提示し、見解を求め直すと

「自分の責任については0と言うこともできないが、100と言い切ることもできない」

センター長が改めてそう述べ、そこでようやく、社長から今後の社としての対応方針を

聞かされる運びとなった。

 

賠償に応じる条件は「痛みの再発はセンター長の処置が原因」といったような、

症状とセンター長の処置との因果関係が明記された診断書提出が必要なのだと。

 

私は社長からのこの条件提示を受け、一旦、客間を退出させた母を部屋を戻すことにした。

母はセンター長からの説明で、賠償の手続きが進むと感触を得、矛を収めようとしている。

だが、やはり、この者達は一筋縄ではいかない。この社長の人となりを直接見せることで、

母にも、それを了解させておきたいと思った。

 

それにしても、医者というもの診断書に症状の因果関係など書いたりするものなのか。

まして利用日から4か月以上も経過してからの、そんな条件は不条理というほかない。

更に、それが条件というのなら、何故それがこの日まで示されなかったのか、となる。

会談要請が無視され続け、役所を動かさないと、その方針が聞けなかったのは何故か。

 

「連絡を入れてもらうよう伝え、待っていた」悪びれもせず、社長か自分の正当性を言うと、

「違う」と、つい今まで断言していたセンター長が口をつぐみ、何も言わなくなってしまう。

「大切なことではないか、答えてもらいたい」と詰め寄る私に、社長はそれを正すどころか、

「それは論点が違う、問題の解決にならない」と割って入り、逆に話を逸らそうとしてくる。

 

「今はセンター長に質問をしている、いちいち口を挟むのは止めて頂きたい!」

社長のあからさまな横やりと、荒ぶった口調の私の押し返し、座の空気も否応なく荒んでいく。

そして、それまで明瞭だったセンター長の記憶と発言の一貫性が、遂に、ここで崩れてしまう。

「その時点で(本社から)どう言われていたかはわからない、憶えていない…」

 

そこからは、まともな問答はもはや成立しなくなり、社長は早く切り上げて帰ろうとするだけ

「保険会社の手続きで何か聞かれれば、ここでの話はそのまま伝えますから」とセンター長も

誤魔化してしまい、協議の要請が無視され続けたことに関し、センター長と本社、どちら側に

虚偽があったのか。結局、煙に巻かれ、特定できないまま、問答は煮詰まっていった。

 

「この会談の仔細、相談に乗ってくれた人達には報告しますよ」と言う私に、

「それは名誉棄損とはなりませんかね」などと返す社長に私はただ絶句する。

「こんなことで、どうやって貴方達を信用すればよいの?」と呆れる母には、

「もう、どう思われても結構ですよ」と社長は、そんな開き直りまで見せた。

 

「症状との因果関係が明記された診断書を提出する」との示談条件を社長は一切、譲らない。

『下らない者達を相手にしている、もういい加減に終わらせたい』私自身も辟易してしまい、

会談は幕引きとなるのだが…。

 

このデイサービスの社長の経歴など気になってしまい、ネットで情報を探し直してみると、

彼は幾つかの医療系学校法人の教育顧問なども兼ねており、ある学校のホームページでは、

県の作業療法士学会・学会長の肩書きと共に、教員・スタッフの紹介欄に載せられていた。

 

県の作業療法士学会・学会長とは、一体、どのような基準で選出されるものなのか、後日、

電話で聞いてみると「現在も過去も、そんな人物が学会長を務めた事実はない」との返事。

そして「何故、そんなことを尋ねるのか」と逆に質問を返される始末で、その数日後には、

彼の肩書きから<県作業療法士学会・学会長>の項目が削除されるといった顛末となった。

 

『立会人無しに、このセンターの誠意は引き出せない』全く、最初に直感した通りであったが、

『今更、それを確かめて何か意味があるか、この数か月、奔走してきたのは何のためだったか』

事情が重なったとはいえ、直前でブレてしまったことへの自問を、私は繰り返すばかりだった。

 

     わが脳のような音する柚子湯の柚