示談交渉の精算

法律相談では証拠が揃わないと言われ、行政からも口を挟めないと言われ、

母においては、この期に及んで、そんな現実に触れたくないということか、

無気力に人生そのものを諦めかけているのか、交渉のことも制度のことも、

自分からは徐々に口にしなくなっていった。

 

そんな母が不憫だったし、息子としても交渉役としても自分が不甲斐無く、

なんとも消化不良でもあり「まだ、終われない」という思いが強くあった。

 

センター側は法的に過失責任を問われることはないと、高をくくっているのだろうが、

代理人弁護士を介しての発言も含め、私達に残していった痕跡を繋ぎ合わせてみると、

たちまち支離滅裂な実態が浮き出てくることになる。短絡的な一時の責任回避のため、

そんな痕跡を残したままにするは、信用を糧に生業とする者が「愚か」という他ない。

 

地域には自治会もあるし老人会もある。両親はこの地域にきちんと関わり、人と繋がり、

暮らしてきた。社長もセンター長も責任ある立場として、この街で日々の送迎に勤しみ、

築40年、生活の染み込んだ実家の敷居を跨ぎ、そこに何も感じるモノはなかったのか。

 


 

やはり、当事者であるセンター長にだけは、そのことを直接に問い正したいと思った。

自分の<名札付きの足跡>を見直し、それでも「代理人を通せ」と目を背けるのなら、

その時はもう仕方ない。所詮はその程度の愚か者だったと、こちらなりの引導を渡し、

その<足跡>については、また別の活用を考えるしかない。

 

弁護士が代理人となり、交渉窓口を一本化されている今、そのための座をどうやって作るか、

その方法を考えていた。前触れなくデイセンターに乗り込んでいくのが一番手っ取り早いが、

サービス時間内であれ、終了後であれ、当人が気色ばみ、あの厄介な弁護士に通報されれば、

元も子もなくなってしまう。

 

デイセンターと実家は目と鼻の先、その施設との関係を普通に繋ぎ直す手がないはずはないと、

契約書と重要事項説明書を読み直してみたところ「料金の支払い方法」の項目に目が留まった。

「支払いは銀行引き落としで行うが、場合によっては現金払いの形をとることもある」

 

思えば、この交渉はたった一度だけ利用したサービスの請求書が上がったと、センター長からの

連絡が来たことから始まった。私は検証会談を要求し、交渉が決着した時点で支払うと約束した。

 

その未払いのままの料金を母が「直接手渡したい」と希望しているということにし、母のもとへ

集金に来るよう要請すれば弁護士など関係なく、センター長と対面する名目が立つのではないか。

 

センター長があらん限りの誠意を絞り出し、やっと成り立つ筋書きで「本社と相談した上で」と

返されでもすれば、計画の迷走は必至となろう。これまで散々失敗してきたことを性懲りも無く、

また繰り返すという話だが、今となっては、もうこれくらいしか、打つ手がないのも事実だった。

そして、それをやらないまま終えることも、私には、あってはならないことでもあった。

 

       蝶々やどれが恋やら敵やら