正式利用開始

母はセンター長から、肉離れの右腿に揉み解しを受けたと確信を持っているようで、

「今日は少し疲れた、変な揉み返しが来ないといいのだけれど」と訝しげに言った。

一方、私は「そう神経質になるな、続けていくうち体も慣れていくはずだから」と、

体験運動自体は一通り無難にこなした母をなだめていた。

 

翌日「摩られた右腿が少し痛い、やっぱり揉み返しがきていると思う」と言い、

朝食前の歩行練習も行わず、ベッドで安静を保ち、体を動かそうとしなかった。

「明日から本利用だけど、来週からにするか?」と聞くと、

「行こうと思っているよ、頑張るから」そう返事を返えす。

リハビリに取り組む意欲が萎えている訳ではないと安堵し、

その翌日には利用契約を結び、通所に備える運びとなった。

 

そのセンター長の送迎で始まった正式利用当日。

「右腿について、体験日の運動と処置の反動なのか、少し痛みを訴えている、

 今日はよく注意して看てやってくれ」と伝え、母を送り出すことになった。

 

帰宅後、母は「今日のリハビリは右腿にひびいて駄目だった、一昨日に体験の足を鍛える運動は

ほぼ無理で、ロープを使った腕の運動などもきちんと力を入れてはできなかった」と振り返った。

残り時間の大半はソファーベッドで女性スタッフに足を摩ってもらっていた、ということらしい。

「やっぱり揉み返しと思う、じっとしていればそれほどでもないのだけれど…」と不安気な調子。

 

来所時のバイタルの測定結果やセンターでの過ごし方を伝える連絡帳には、

「座位でのゆっくりとした運動を1時間程実行(残りの時間は)膝と腰の痛みの訴えがあり、

 横になって頂き対応した」とあった。最初に申告した右大腿部のことは触れられておらず、

 母の話とも少しズレがある。

 

実際に、そのことが後に論争の焦点になってくるのだが、その時は想像だにもせず、

母の気持ちがブレないように励まし、ペースを作っていく事が自分の役割なのだと

「誰でも慣れない運動をすれば多少の筋肉痛位は出る、前向きに考えていこう」と

私は母への鼓舞を続けていた。 

 

     夏帽子載せステッキがこけてゆく