体験利用から一週間経ち、次の火曜日。母の右大腿部の違和感は相変わらずで、
「むしろ少し強くなっているような…、今日は休む」となり、欠席することに。
「次回の通所については復調の様子を見ながら決める」と連絡を入れたのだが、
結局これ以降、再開を実現する日が訪れることはなく、このデイサービスでの
リハビリは体験利用と正式利用の一度ずつ、2回をもって終了することになる。
それからも、母の右足は時計を巻き戻すかのようにじわじわと痛みが強まり、
その週末には、立ち上がることさえ苦痛を訴えるほど状態が悪化していった。
ついには「どこか通いやすい整形を探して、連れて行って」と言い出す始末。
通いやすい整形…。
肉離れの時に往診を頼んだ医院はバリアフリーの設備も駐車場も整っていなかったり、
総合病院は家から近いとはいえず、駐車場から診察室まで移動も手間が要ったりとか。
車から降りて直ぐに診察室に入れる設備が整っているところ、
待ち時間でも車内で横になって待っていられるようなところ。
そういう整形医院を探してくれ、と言う訳で…。
「個人開業だが設備も整っていて、丁寧に看てくれる先生」と知人から紹介を受けた整形医院。
体験利用から二週間以上が経過した初診日には、更に痛みが強まり、診察台に寝ることにすら、
看護師の介助が必要な程に状態が悪化していた。
確かに医学的な専門知識、骨密度やら骨粗鬆やら、新しい治療方法など説明は大変丁寧だったが、
それが患者の話を聞く丁寧さにも反映されるとは限らない。有効な治療に役立ててもらえればと
こちらが話す経緯も、どんな風に言葉が届いているのか心許ない、そんな少々敷居の高い印象の
医者だった。
レントゲン検査の結果、骨には異常なし。
母は痛みが悪化し始めたデイセンターでの経緯を賢明に説明する。だが医師からは
「自分はその現場にいた訳ではないので、因果関係については何とも言えない」と。
『交通事故に遭った場合と同じことだった』と思った。
その場で直ぐに怪我などなくても、強い衝撃を受けたり体のどこかに違和感があれば、
日にちが経ってから症状が現れることもあるので、とにかく医師の診察を受けておく。
そんなことは十分に知っていたはずなのに、私はこの局面で、これしきの教訓を母に
いかすことができなかった。
骨折で杖歩行となり約2年、そして肉離れから半年掛りで再び杖歩行に戻れた2か月間。
この時間が母の人生において、人の手助け無しに自力で移動が叶った最後の時となった。
浮雲にまた蟷螂(とうろう)が乗りそこね